その瞬間

「やあ、おやせちゃん」
「Hi, skinny baby!」
蒼白な顔にひきつった笑みを浮かべて突っ立ったままの私に、馬上のエルヴィスは笑いかけながらこう言った。それでも私の緊張がほぐれないと見るや、こんなお世辞まで発した。
「You're so foxy. Ah... I mean "charming." Don't be afraid of me. I'm just a male. I'll get down from her. Why don't you come in to my lovely garden, and let's go on interviewing there.」(フォキシーだね。そのー、チャーミングって意味だよ。そんなに僕を怖がらないで。ただの男なんだからね。いま馬から降りるから。僕の好きな庭のほうに行きましょう。そこでインタビューをどうぞ)

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エルヴィス・プレスリー! 何らの説明を要しない、この世界の大スターが、極東から来たどこの馬の骨とも知らない私のインタビューを受けてくれるとは、青天の霹靂である。しかも私は、自他ともに認めるエルヴィスの熱烈かつ長年の崇拝者なのだから、気を失わないことが不思議だった。

エルヴィス・プレスリーのインタビューは、誰からも制約を受けたくなかった。だからスポンサー無し、肩書きも背負う看板も無し。あるのは、どうしても叶えたいという熱意と行動力だけであった。

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馬から降りたエルヴィスはポンポンと馬の首を優しくたたき、そして歩き始めた。フーと香ってきたのは空気の匂い。神様だ、と一瞬感じた。彼のご機嫌が変わりませんようにと祈りながら、私はどうしても聞きたかったことから始めることにした。





〔筆者から〕

 
エルヴィス・プレスリーに会って彼の「人となり」を書くことは、私の夢でした。エルヴィスが最も好調といわれた年に、私はラスベガスへ飛んでショーを観ました。
その数年後に、私は学生としてアメリカに居住することになりました。エルヴィスの国の空気を吸い、いつか彼を書きたいと希望を持って。
しかし・・・、天は私に味方しませんでした。出発のちょうど1週間前、エルヴィス・プレスリーは突然他界しました。私はそのことを、山手線の車内で乗客が手にしている新聞から知りました。私は予定通りアメリカへ飛び立ちました。着いたアメリカではそこかしこでエルヴィスの追悼。日が経つにつれて、死因を分析する番組も増えてきました。

それから25年。これは、遂に叶わなかった私のテーマ実現の一歩であり、エルヴィス・プレスリー仮想インタビューです。ユーモアの心で、おおらかな気持ちでお読みいただければ嬉しく思います。
 
 
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